Black Civilization

弘文堂の出版になる「文化人類学文献事典」のために文章を編んだので、以下に掲載しておく。
<--- 以下本文 --->

ウォーナー、ロイド Warner, William Lloyd(1898-1970)
Black Civilization : A social study of an Australian tribe : Harper & Row, 1937 (Peter Smith, 1969)

 本書は、オーストラリア北東部アーネムランドに居住する「ムルンギン」の社会生活、特に、親族構造、トーテミズム、呪術などの詳細な民族誌である。
著者のウォーナーは1926年から29年にかけて通算3年間、アーネムランドのミリンギンビに滞在し、その成果として本書を書き上げた。彼はカリフォルニア大学バークレー校在学中ローウィやクローバーの教えをうけ、1926年にはマリノフスキーの集中講義を受講、ラドクリフ=ブラウンの示唆を受けてフィールドワークを開始した。ウォーナーが調査を開始した1926年は、マリノフスキーとラドクリフ=ブラウンの著書が出版され、民族誌をコアとする「現代人類学」の発端となった年でもあったのである。
 本書の重要なポイントは、アボリジニの複雑な親族システムの議論について、新たな論点をもたらしたことである。それは、アボリジニ親族組織のカリエラやアランンダ等における対称システムに対して、ムルンギンの非対称システムの解釈についてである。レヴィ=ストロースやラドクリフ=ブラウン、ニーダム、デュモン、リーチらを巻き込んでいわゆる「ムルンギン論争」を引き起こし、親族理論論争の格好の素材になったのである。その後も、現代に至るまで角度を変えつつ研究者(Morphy、窪田ら)の関心を集めているテーマである。
 なお、ウォーナーのいう「ムルンギン」とは、本書の中で述べられているが「他称」であって、その後、かれらの名称についてはウランバ(Wramba, R.M. Berndtによる)、ミニュイット(Mymuit, W. Shapiroによる)などもあげられたが、現在ではヨルング(Yolngu=人間)とするのが一般的である。
 著者のウォーナーは、興味深い人生をたどった。前半生は人類学者として、後半生は社会学者としてのそれである。文化人類学の手法を社会学のコミュニティ研究に適用し、合衆国における階層研究および社会調査に道を開くことになった。
[参考文献]窪田幸子,親族の基本構造を生きる:「ムルンギン」の現在,青木ほか編「岩波講座文化人類学:個からする社会展望」,岩波書店,159-196,1997. Morphy, Haward, Ancestral Connections : art and an Aboriginal system of knowledge, Univ. Chicago Press,1991.レヴィ=ストロース,C.,親族の基本構造(上・下),番町書房,1977. Warner, W. Lloyd, American Life: Dream and Reality, Univ. Chicago Press,1962.

このブログ記事について

このページは、杉藤重信が2004年1月13日 21:18に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「原武史『鉄道ひとつばなし』『大正天皇』」です。

次のブログ記事は「狩人の大地」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。