狩人の大地

弘文堂の出版になる「文化人類学文献事典」のために文章を編んだので、以下に掲載しておく。
<--- 以下本文 --->

小山修三(1939-)
『狩人の大地:オーストラリア・アボリジニの世界』雄山閣、1992

 本書は、国立民族学博物館(以下、民博)の特別展「オーストラリア・アボリジニ展:狩人と精霊の5万年」(1992年9月10日から12月8日)の開催を契機に、著者がそれまで出版してきた諸論文を集め、新たに書き下ろしをくわえて出版したものである。
 オーストラリア・アボリジニは人類学の教科書ならたいていのものに言及があるくらいよく知られているが、どういう訳か日本の文化人類学者による本格的なフィールドワークは見られなかった。著者は、1980年に民博の資料収集を行い、そして、1982年に初めて文部省科学研究費補助金(当時)を得て、本格的な住み込み調査を行って、それ以降、民博を中心にアボリジニの研究グループを組織することになったのである。
 アボリジニの調査は、本書でも述べられているように著者の縄文研究者としての必要に端を発している。現代に生きる狩猟採集社会としてのアボリジニ社会を解明することによって、縄文時代の生活に想いをはせようとしたのであった。しかし、著者の思いと違い、人口規模は小さく縄文とは異なっていた。また、現代社会との様々な軋轢のさなかにいるアボリジニたちの姿を見て、著者の関心は大きく展開していくことになる。
 本書は大きく3部に分かたれている。第1部はアボリジニを取り巻くオーストラリアの環境と歴史である。豊かな自然とその中で生きる狩猟採集民の生活が、植民地開始とともに、大きく変化することになった歴史が記述される。第2部は住み込み調査に基づくアボリジニの現代の暮らしが描かれている。親族中心の社会構成や食事、英語など、アボリジニの生活を彷彿とさせる筆致で描かれる。第3部では、貨幣経済や政治に関連づけた諸項目があげられ、アボリジニ社会が抱える、現代的諸問題が提起される。
 都市に住むアボリジニたちは、都市社会における下層に組み込まれ、失業やアイデンティティ喪失に悩む。また遠隔地のアボリジニたちも、アイデンティティの問題はともかくも、貨幣経済の中で生きていくことには変わりはなく、失業や経済手段の確保に悩まされることになる。
 本書は、現在においてもなお、日本の文化人類学によるアボリジニ研究を概観するものとして、また、アボリジニを取り巻く諸問題に取り組むにあたっての入門書として適していると思われる。

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このページは、杉藤重信が2004年1月13日 21:20に書いたブログ記事です。

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