原武史『鉄道ひとつばなし』『大正天皇』

年末に原武史の『鉄道ひとつばなし』を読み始めた。日本の鉄道に関わるショートストーリーをつづったもので講談社のPR誌『本』に連載していたものだという。ストーリーは時間から始まる。どのように人々は近代を受け入れたのか、鉄道という近代の乗り物を受け入れるとともに時間というシステムをも受け入れてゆく。読み進むうち、天皇や皇太子の行幸・行啓のところで、彼が『大正天皇』の著者でもあることに気がつき、それもあわせてよみすすむことになった。読了は、後者の方が早くなった。
大正天皇は世間でとかくの噂のある天皇であったが、議会における「遠めがね」事件はわたしも知っている。彼は、幼児より病弱であったが、行啓を重ねるにつれて健康を取り戻す。偉大な父であり神格化されていた明治天皇に対し皇太子は疑問に思ったことは素直に口に出し、行動する。ある意味で全く異なる天皇像を自ら造り出していくかに見えた。しかし、大正時代はある種近代日本の確立期でもある。彼の明治天皇との関係や自らの国民との関係における天皇像が果たして明確な意志からそのように振る舞ったのか全く明確ではないが、明らかに、現代に通じる象徴天皇の姿の皓歯でもあったとも言える。そして、昭和天皇は父である大正天皇とは対照的に明治天皇を意識しつつ、昭和時代の新たな神格化された天皇を演じてゆく。
これらの著作は、著者自身の個人的な鉄道に関する強い関心と、彼の個人的なキャリア(日経新聞記者として昭和天皇の崩御に至る報道に携わった)に関連して、キャリアを近代史家へと方向転換して、近代日本の姿を天皇をとおして描こうとしたものである。久しぶりに興味深く眺めることができた本であった。
2003『鉄道ひとつばなし』(講談社現代新書)
2000『大正天皇』(朝日選書)

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このページは、杉藤重信が2004年1月 7日 11:17に書いたブログ記事です。

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